The Music of Chance by Paul Auster
離婚、父親の死、それに伴い手に入った遺産。
Paul Austerの小説には馴染みのあるキーワードのような気がしますが、今回の主人公Nasheもmental breakdownに見舞われ、現実から逃げるようにただひたすらアメリカ中をドライブする場面から始まります。
道中、何者かにボコボコにされたPozziiというポーカーギャンブラーを救い、一攫千金を狙ってミリオネアたち(FlowerとStone)に勝負を挑みに行くところから話がグングンと面白くなりました。
とにかくミリオネア側の存在が最初から最後まで謎めいていて、話の展開が読めるようで読めず、ラスト1ページまでどういう結末を迎えるんだろうとドキドキ。
数々のレアなお宝を手にし、巨大な家に住んでいるものの、夕食はお子様メニューのようなハンバーガーというギャップだったり(おでぶのFlowerが「食べないならちょうだい」とStoneから直に手渡しでバーガーをもらう場面に唖然とするNashe)、Stoneが趣味で作っている建築模型("City of the World")の未完成部分には何を作る予定なのかと尋ねると「この模型のミニチュア版を入れる」と言うエキセントリックさだったり、ハイソな様相とは裏腹にチラ見えする「滑稽さ」「幼稚さ」が二人の存在を一層奇妙なものにしていました。
おまけに話の途中から忽然と姿を消すのに、それでも存在感満載なのです。
彼らの下で働くforemanのMurksという老人も、最後まで信頼に値する人物か確信が持てず、どこかでNasheがまんまと騙されるのではないかとハラハラしましたが、いずれにしても胸にズシリと来る結末で、一人の人間が破滅に追い込まれて行く過程が非常にリアルに感じられるお話でした。
自由を求めて賭けに出たものの、結果的には自由を奪われ、最後は再び手に入りかけた自由との繋がりを断つことを決めたNashe。抵抗できない外側からのパワーに翻弄されていく彼に、読者としても翻弄され続け、グイグイ読み進められます。
20代の頃にはまっていたPaul Austerは、生活が落ち着いてきたのを機になんとなく疎遠になってしまいましたが、久しぶりに読んで若かりし頃人生に迷っていた自分を思い出しました。
筆者の紡ぎ出す閉塞感、孤独感は、誰にでも一生に一度くらいは共感できる時があるんじゃないかな、なんて思います。シンクロしまくっていた過去や、逆に一歩引いて完全に傍観できる今を鑑みると、私にとっては自分の立ち位置を確認できる、そんな作家な気がします。
邦訳は言わずもがなな柴田元幸氏。
- 作者: ポールオースター,Paul Auster,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/11/28
- メディア: 文庫
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